震災の1年後
2012年3月18日に宮城県石巻市の住吉中学校・体育館で開催された、福山雅治のライヴ~MEET THE MUSIC in 宮城~。東日本大震災をきっかけに関係がスタートした住吉中学校での開催とあって、地元の学生はもちろん、30代や40代、中には60代以上の観客も確認できるほど幅広い客層で埋め尽くされた会場。まさに老若男女が集まる貴重な瞬間が、2012年6月10日の午前1:20から、NHK総合で1時間半にわたって放送された。
(画像はAmazonより)
当日のライヴでは、“虹”や“HELLO”など過去の曲から、ロック色が強くライヴ映えする“Around The World”、疾走感あふれるバンド・アンサンブルに前向きな歌詞が印象的な“fighting pose”と言った最近の曲、そして震災後に生まれた名曲“家族になろうよ”、さらに福山の代表曲“桜坂”など、オールタイム・ベスト的選曲で構成されたステージ。地上波の放送では、途中に支援物資を送る模様や、震災直後のラジオのチャリティー番組の模様などを挿みながら番組は進行していく。
当日もFMで生中継
ライヴ当日は、ステージの模様がFMラジオで生中継されていたが、ラジオが終了した後もライヴは続いていた。地上波の放送では、ラジオでは聴けなかった会場だけのステージの模様も、しっかり収められていた。福山の継続する支援に感謝の気持ちを込め、住吉中学校で掃除の時間に毎日流れる“蜜柑色の夏休み”。それを知った福山が、ライヴでこの曲を演奏すると、一際大きな歓声が上がる。次に演奏された“少年”も、下校の時間に流れている曲と福山が紹介すると、先ほどより大きい反応が会場から起こる。曲の始まりの部分を会場全体で大合唱する光景は、この1年で育まれた力強い絆が導いたもの。曲が終わり、締めの挨拶をした後すぐに起こった客席からのアンコール。バンド・メンバーがステージから去り、福山だけが残る。アコースティック・ギター1本で弾き語りを始めた曲は、“道標”。アンコール終了後も、すぐにステージを去ろうとせずに、集まった観客に感謝の意を述べる福山の姿が、とても印象的だった。
音楽をはじめ、エンターテインメントという職業は、非常時に必要かと問われれば、なかなかイエスと答えることのできない難しい立場だ。特に昨年の震災では、救助用のヘリコプター、救助を務めたレスキュー隊や自衛隊など有事の際に緊急に必要とされる人たちや、避難所での食料や水分、発電機、衣料、トイレ、医療など生活に必要なサービスや物資と比較すると、エンターテインメントにそのような即効性はない。
しかし、時間が経過して落ち着きを取り戻した後、癒しや絆といった目に見えない心の拠り所を求める時、その時こそが音楽の一世一代の晴れ舞台となる。言葉は違うが、そのことを十分に理解していた福山は、ライヴ当日もそのことについて触れていた。流行を生み出すという一面も音楽には存在する。しかし、音や歌詞に乗せて何かを伝えようとすること、それこそが音楽のあるべき姿なのではないか、そのことについて深く感じる瞬間、音楽の原点が中心に据えられた、感慨深いライヴであった。
(松本 良太)
NHKネットクラブ 音楽熱帯夜スペシャル 福山雅治ライヴ~MEET THE MUSIC in 宮城~FUKUYAMA MASAHARU OFFICIAL WEBSITE